よいお年を。

年末です。

もう外の空気が年末です。青空ひとつとっても普段の青空とは異なる「年末ですよ!」って空気感を出している。道行く人々がせわしなさそうにしながらもどことなく浮かれてる感じ、冬の冷たい空気もなぜかちょっと爽快感すらある独特な雰囲気……。嫌いじゃない。寒いのは苦手だが。

 

かつて接客業を10年近くしていた。

財布の紐も緩くなる季節、忙しいなか休憩で外に出た時の街の雰囲気や空気(外気)が好きだった。

年末にお買い上げいただいたお客さまに「よいお年を^^」と言おうとしていたことがある。正確には職を辞する前の最後の二年だけかな。

顔見知りの常連さんには、会話の中でそれとなく「今日で今年最後ですかね…」と探りを入れ、去り際に。というか、常連さんにはずっと以前から挨拶していたか。

一見さんや、よくいらっしゃるが会話をしたことがない方々について、30日と31日に絞って言うよう努めたのだった。さすがにお客さま全員に言えたわけじゃないけど。

接客マニュアルがあったわけではなくて、自分自身の判断で。

お客さまのリアクションを見るのも楽しみだった。

「えっ?」っていう表情を一瞬されたのち会釈される方、戸惑った感じでそのまま去られる方、「うん、よいお年を」と自然に返される方、「おぉ、ありがとうございます」と丁寧に頭を下げられた方、苦笑いにも似た表情で無言で頭を下げていかれる方……などなど。

 

当時のわたしは色々と参っていて、心が折れかけていた(いや、すでに折れていた)頃で、内心は相当ヤサぐれていた。そこで逆に外面ではイイ人になろう、せめて少しでも良いことをしよう、した気になろうと必死だったのだと思う。

某作家の表現を借りれば、わたしなりに『人々に祝福を与えようとしていた』のかもしれない。ずいぶんと大それた考えだが。

 

年内の仕事を終えてショッピングモールの駐輪場から帰る際に、年配の警備員さんにも「よいお年を」と言った。すると、いつも背筋をピンと伸ばしている彼は少し驚いた表情を見せつつ「あぁ、これはご丁寧にどうも。ありがとうございます。よいお年を」と返してくれた。

 

 

……などといったようなことを急に思い出した今年の年末。前職を辞してから一度も思い出したことのないささやかな出来事、なぜか今年の年末の街並み、人並みにまぎれながら思い出したのでした。

みなさん、よいお年を。わたしもよい年にしたいです。